こんなん書きました。

日々の雑感をつらつらと。あるいは手に入れたアイテムのオススメなポイント、運用方法などをご紹介してみたり。

「ソラチエース誕生祭2023」のイベントレポート【前編】が公開に。

こんなん書きました。

blog.sapporobeer.jp

サッポロビールは100年以上に渡ってビールの原料であるホップの育種開発と研究を続けている。
いくつもいくつものホップが生み出されるなか、新たな品種として登録され、公に認められるものはごく一部。
しかも、品種の認定まで至っても、実際にはあまりビールに使われていない、不人気な品種も当然のことながら存在する。
ホップの場合、最初に開発されてから認定に至るまでに約10年の月日が必要だ。
独特の華やかな香りを持つ1970年代生まれの「ソラチエース」は1984年に新たな品種としての認定を受けた。
生まれた土地「北海道空知(そらち)郡上富良野町」にちなみ、「エース」という文字が輝く命名に、この品種への期待がうかがわれる。
しかし、ソラチエースのその際立った個性が徒になる。
日本の特殊なビール市場が活躍の場を与えなかったのだ。
2020年を過ぎた今でこそだいぶ事情は変わってきているが、日本の4大メーカーから発売されているビールは、ほぼすべてが下面発酵でつくられるラガーの一種、ピルスナーに限定されていた。
K社のあれも、A社のそれも、違いが各々あるようでいて、実はその製法を見ればどれもこれもがピルスナーに分類される、非常に幅の狭いもの。
こうした市場にとって、ソラチエースの突出した個性は不向きだったのだ。
そんな事情から、ソラチエースが日の目を見るまでには、品種認定から約30年もの月日が必要だった。
日本では活躍の場を与えられなかったソラチエースは、1994年にアメリカへと渡った。
埋もれるには惜しいソラチエースの個性を活かそうと、サッポロビールの研究員がオレゴン州立大学にソラチエースを持ち込んだのだ。
当時のアメリカは、クラフトビールブームの黎明期。
研究員はそこに賭けたわけだ。
しかし、それでも火は付かない。
ソラチエースにとっての本当の転機は21世紀に入り、2002年になってようやく訪れる。
ワシントン州でホップ農場を営むダレン・ガメシュ氏がその個性に着目。アメリカ国内のブリュワリーにソラチエースを広めはじめたのである。
ここからソラチエースの評価は徐々に高まっていく。
日本で生まれた不遇のホップは、アメリカ、そしてヨーロッパへ。
レモングラスやヒノキに例えられるソラチエースの香りと鮮烈な苦味は2010年代に大きなブームを巻き起こし、ここに至ってようやく世間から高い評価を得るに至る。
こうして品種認定から世界を席巻するまでに約30年もの時を要したソラチエースは、満を持して日本へと凱旋を果たすのだ。
ソラチエースが「伝説のホップ」と呼ばれる背景には、こんな長きに渡る物語が存在するのである。
現在発売されている「SORACHI 1984」は、そのソラチエースを用いたビールだ。
先に「ソラチエースはピルスナーにあわない」と書いた通り、SORACHI 1984ピルスナーではない。
上面発酵酵母を用い、上面発酵によって作られた「ゴールデンエール」だ。
スーパーに行けばピルスナーとさほど変わらない値段でゴールデンエールが並んでいる。
SORACHI 1984だけではない。
各社から出ているさまざまな「ピルスナーではないビール」が手軽に買えるようになった。
その光景は「時代は変わった」ことを大きく物語っている。
さて。
シェアした記事で書いたのは、2019年からソラチエースが認定をうけた9月5日に毎年開催されている、「ソラチエース誕生祭」のレポートだ。
これを企画しているのは、SORACHI 1984のブリューイングデザイナーの新井健司さん。
「SORACHI 1984の」ではなく、「ソラチエースの」というところが、このイベントの肝心なところだ。
かつてはソラチエースを用いたビールを出しているいくつものブリュワリーのかたがたがリアル、あるいはオンラインで共演したこともある。
「SORACHI 1984」だけにとどまらず、ソラチエース、さらにいえば、「ホップそのものの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」という想いを新井さん、それに今のサッポロビールが強く抱いている。
このイベントはそれを象徴するものと言っていいだろう。
ま、有り体にいうとだね。
ソラチエースが品種認定された1984年にちなんで19時8分4秒に行われる乾杯を、いかに楽しく飲み干せるか。
そこに注力したイベントなのであるよ。
このイベントを、前後編の2回に渡って紹介する。
写真は志田彩香 Ayaka Shida さん。
今回はその前編で、後編は来週公開になる予定だ。
最後にちょっと脱線するけども。
SORACHI 1984を生み出したブリューイングデザイナーは、新井健司さん。
一方、ソラチエースの品種登録を手がけた研究員は、「荒井康則」さんというお名前だそうな。
SORACHI 1984というビールは、2人の「あらいさん」によって生み出されたのだな。